9.精神的自由2−表現の自由   21条  集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。    検閲はこれをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。 9−1 表現の自由の意味      (1)表現の自由の価値    自己実現の価値…個人が言論活動を通じて自己の人格を発展させるという個人的な価値の側面    自己統治の価値…言論活動によって国民が政治的意思決定に関与するという立憲民主制に資する社会的な価値  (2)知る権利   *知る権利も21条によって保障されるか。表現の自由が思想・情報を発表し伝達する自由であることから問題となる。    →知る権利の21条によって保障されている。 r.情報の送り手であるマスメディアと受け手である一般国民との乖離が進みしかも情報の意義も飛躍的に増大し       た現代において、受け手の側に立って表現の受け手の自由を保障するために構成し直したと言える。   *知る権利に基づき、積極的に政府情報等の公開を要求できるか。情報開示請求権まで認められるか。A    →知る権利は、国家の施策を求める国務請求権ないし社会権としての性格をも有するが、それが具体的請求権となる     ためには情報公開法の制定が必要である。 r.民主制の原理から当然に情報開示請求権は認められる。但し、要件・手続が不明確だと情報公開によって個人       のプライバシーが侵害される恐れがあるため具体的法律が必要である。  (3)アクセス権   アクセス権…狭義においては不法行為たる名誉毀損に対する一救済方法としての反論権を指し、広義においては不法行  為たる名誉毀損の成立を要件としない反論権や、有料の意見広告を含めて、およそ市民が何らかの形でマ スメディアを利用して自己の意見を表明できる権利。   *アクセス権は、表現の自由によって保障されるか。B+    →直接保障されているとは言えず具体的権利となるためには特別の法律が制定されなければならない。 r.アクセス権を認めることはマスメディア側の消極的表現の自由を侵害することになる。私企業であるマスメディ   アに対して直接具体的な権利を導き出すことは不可能である。批判的記事を差し控える萎縮的効果も考えうる。 9−2 表現の自由の内容     1.集会・結社の自由  (1)集会の自由    1)内容 集会とは→特定又は不特定の多数人が一定の場所において事実上集まる一時的な集合体 パブリック・フォーラム論…表現活動のために公共の場を利用する権利は、場合によっては、その場所における他       の利用を妨げることになっても保障されるとする理論。    2)制限    *管理権者がその団体に敵対する団体の妨害行為による混乱を避けることを理由に、その施設の利用を拒否できるか。   →判例)警察の警備等によってもなお混乱を防止することができないなど特別な事情がある場合に限られる。  (2)集団行動の自由    1)内容    *集団行動(集団行進、デモ行進)の自由の根拠は何か。B →通説)「動く公共集会」として集会の自由に含まれる。  少数説)21条の「その他一切の表現の自由」に含まれる。    2)限界  公安条例による集団行動の自由の規制       →目的が必要不可欠なもので手段が必要最小限度なものでなければならない(事前抑制禁止の理論)。     →規制手段としては届出制でなければならない。但し、形式的には許可制であっても、不許可とされる場合が厳格に      限定されていて、実質においては届出制と異なることがない場合には、合憲とされる。     →規制要件は明確でなければならない(漠然性ゆえに無効の理論)。  (3)結社の自由    1)内容 結社とは→共同の目的のためにする特定の多数人の継続的な精神的結合体 結社の自由  個人と団体の関係で公権力による干渉を受けないこと。  { 団体が団体として公権力による干渉を受けないこと。    2)限界→ 犯罪を行なうことを目的とする結社は許されない。   {憲法秩序に反対することを目的とする結社は許される。 2.営利的表現の自由  *営利的な目的でなされるいわゆる営利広告も21条により保障されるか。表現の自由が、本来政治的表現の自由を保障   するものであるところ、営利広告は営業活動の一環であることから22条による保障ではないかが問題となる。B+   →伊藤説)営利広告を、言論の自由の内容をなすものと、経済的自由として保障される純然たる営利広告に二分する。    c.国民にとっての情報価値という視点を考慮すれば、そのような解釈は妥当ではない。    佐藤幸説)営利広告も原則として表現の自由の保障対象となるが、厳格性の緩和された審査基準が妥当する。  r.国民一般が消費者として広告を通じてさまざまな情報を受け取る重要性を考えると表現の自由の保障対象と     なると考えるべきである。但し 経済的自由権としての性格、表現の自由としての自己統治の価値の稀薄性 営利的言論の真実性は、概して政治的言論と違って行政機関による客観的判定に馴染みやすくよって萎縮        して表現行為を差し控える恐れが少ないこと 営利的言論は日常的経済生活に直接影響することが多く規制            が必要であること等に鑑みて保障の程度は非営利的表現の自由の場合よりも低いと考えられる。    浦部説)営利広告も表現の自由の保障対象となり、その制約に関しては、一般の言論の場合と同様の厳格な基準が適     用される。r.緩やかな審査基準が適用されるとすると表現の自由の保障に含まれるとする意味がなくなる。 3.報道の自由と取材の自由  (1)報道の自由   *報道の自由は、21条の表現の自由の保障に含まれるか。報道は事実を知らせるものであり、特定の思想を表明する    ものでないことから問題となる。A    →通判)報道の自由は、表現の自由の保障に含まれる。    r. 報道のために報道内容の編集という知的な作業が行なわれ送り手の意見が表明されるといえる。   報道機関の報道は国民の知る権利に奉仕するものとして重要な意義を持つ。   事実の伝達と思想意見の伝達を厳密には区別できない。  (2)取材の自由   *報道の自由に、取材の自由が含まれるか。報道の自由とは異なり、取材の自由は水から情報を獲得しようとする積極    的行動に関わることから問題となる。A    →通説)取材の自由も報道の自由の一環として21条で保障されると解すべきである。    r.報道は、取材・編集・発表という一連の行為により成立するものであり、取材は報道にとって不可欠の          前提をなす。   *公正な裁判の実現の要請との関係。    →取材の自由と公正な裁判の要請との比較衡量により調整すべきである。具体的には、証拠としての必要性、取材の     自由が妨げられる程度、報道の自由に及ぼす影響を衡量して慎重に決すべきである。 差押・押収をなす場合にはその機関が裁判所と捜査機関であるかによって利益が異なる。   *国家機密との関係。    →国家が保有する情報は原則として公開すべきであり、取材の自由は広く認められる。 4.性表現と名誉毀損的表現  (1)性表現   *性表現は21条による保障を受けるか。B−    →従来の考え方)わいせつ罪が刑法に定められており、性表現は憲法で保障された表現の範囲に属さない。    c.わいせつの概念をどのように決めるかによって、本来憲法上保障されるべき表現まで憲法の保        障の外におかれてしまう危険性が生じる。 定義づけ衡量論)性表現も表現の自由に含まれると解した上で、最大限保護の及ぶ表現の範囲を画定していく。 r.性秩序の維持という価値や利益との衡量を図りながら表現の自由の価値に比重をおきながら        わいせつの定義を絞っていくことにより表現内容の規制を出来るだけ限定すべきである。   *刑法175条のわいせつ文書頒布罪は合憲か。    →合憲説(通説):刑法175条を限定的に解釈し、規定自体は合憲であるとする。 r.通常人にとって明白に嫌悪的なものでかつ埋め合わせできるような社会的価値を全く欠いて        いるような文書類の規制に限定するように適用される限り合憲である。  (2)名誉との調整   →真実性の証明によって免責される。    プライバシーとの調整    →表現の自由とプライバシーの調整においては等価的な利益衡量によって調整をする。     公人については国民の自己統治に資するテーマについては表現の自由が優先するが、私的事柄はプライバシーが優先     すると考えるべきである。 5.選挙運動の自由  (1)選挙運動の自由   →21条の表現の自由として保障される。  (2)制限   *選挙運動の自由が原則か、公正な選挙が原則か。    →選挙運動の自由が原則である。r.表現の自由としての重要性、参政権的な性格の重要性   *戸別訪問禁止規定は合憲か。    →判例)合憲。r.戸別訪問は買収や利益誘導の危険性がある、情実によって投票がなされる危険性がある、無用・          不当な競争に伴って資金的余裕がある者のみが戸別訪問ができるため、実質的な公平を阻害する、      有権者の私生活の平穏を攪乱する。 通説)LRAの基準により合憲性を判断する。違憲。 9−3 表現の自由の限界     1.二重の基準の理論  …表現の自由を中心とする精神的自由を規制する立法の合憲性は、経済的自由を規制する立法よりも、特に厳しい基準に   よって審査されなければならない。   r.(必要性)表現の自由のような精神的自由は民主政の過程に不可欠であり、これがひとたび侵害された場合には、   民主政の過程すなわち選挙と投票箱の過程を通じて自己回復することが困難なので、裁判所が厳格に審  査をし、積極的に介入していく必要がある。【民主政と投票箱】  また、精神的自由権は一度傷ついたら容易に回復することができない繊細な権利であり、介入を要する。    (許容性)裁判所は政策の当否についての能力が乏しく経済的自由権の審査能力には問題があるが、精神的自由権   については政策的な要請による規制でないため審査能力は問題とならない。【政治部門との役割分担】    精神的自由(表現の自由) 文面審査  A   事前抑制の禁止      {明確性の理論 適用審査  B表現内容の規制  明白かつ現在の危険かどうかで判断   C表現の時・所・方法の規制 LRAの基準で判断    経済的自由   D消極目的規制  厳格な合理性の基準で判断(C=D)   E積極目的規制  合理性の基準/明白性の原則で判断 2.事前抑制の理論  (1)意義   …表現行為がなされるに先立ち、公権力が何らかの方法でこれを抑制すること、および実質的にこれと同視できるよう    な影響を表現行為に及ぼす規制方法は原則として排除されるべきという理論。    r.全ての思想はともかくも公にされて公の批判の機会にさらされるべきであるという「思想の自由市場」の観念に反      する。事後抑制はやや権力側に訴訟追行の負担がかかる分だけ慎重になされる可能性があるが、事前抑制は訴訟  追行の負担すら負わないままに国家権力の側が容易に行なうことができるという点で危険性が大きい。   *検閲と事前抑制の理論の関係。A    →最狭義説(判例):検閲とは 行政権が 思想内容を審査し、 表現行為を禁止することであるが、 網羅的・一           般的に 発表前に行なわれるものをいうとする。 狭義説(佐藤幸・浦部)  :事前抑制とは、表現行為に先立ち公権力が何らかの方法でこれを抑制すること、および実質的にこれと同視で       きるような影響を表現行為に及ぼす規制方法をいう。   事前抑制のうち検閲は21条2項により絶対禁止され、検閲とは 行政権が 表現内容を審査し 不適法と認       める場合にはその表現行為を禁止(受領行為を禁止)することをいう。( 受領前に行なわれるものも含む)  r.21条1項と別に2項を設けていることから、検閲は絶対に禁止されている。 例外を生じさせないため検閲の主体は行政権に限られると解するべきである。 審査の対象は表現の自由が事実伝達の自由も含まれることから、思想内容でなく広く表現内容とする。 表現の自由は表現を受け取る自由を当然に含むから、発表の禁止ではなく広く表現行為の禁止とする。 広義説(芦部)  :21条2項の検閲の禁止の原則が事前抑制の禁止の理論を定めたものとする。   検閲とは 公権力が 思想内容( 芦部−表現内容)を審査し 不適法と認めるときにはその発表を禁止する       ことをいう。名誉・プライバシー保護のための裁判所による事前差止など検閲の禁止の例外を認める。  (2)問題となる場面    1)裁判所による差止     →通判)主体が行政権でないため検閲には当らない。しかし、事前抑制の一形態となるため厳格な要件が必要となる。 実体的要件−事実が非真実か、またそれがもっぱら公益を図る目的でないことが明白であって、かつ被害    者が重大にして著しく回復困難な損害が生じる恐れがあること。 手続的要件−表現者に対して口頭弁論又は審尋といった弁明の機会が与えられること。    2)税関検査     *関税定率法21条1項3号に基づく税関検査は、検閲となるか。A   →通説)税関検査は検閲に当り、違憲である。r.検閲は日本国民の受領前に行なわれるものも含む。   判例)検閲に当らず、合憲である。r.税関検査は網羅的一般的なものではなく、また発表禁止とはならない    (国外で発表済み)ため検閲には当らない。    3)教科書検定     *教科書検定制度は検閲となるか。A  →否定説(判例):教科書検定制度は検閲に当らない。    r.教育の機会均等の確保、教育水準の維持向上、適切な教育内容の保障という要請に応えなければならない         という教科書の特殊性。検定不合格となっても一般と処として発売はできる。   肯定説(浦部):教科書検定制度は検閲に当たる。    r.思想内容の審査にまで及んでいる以上、検閲に当たる。表現の自由は教科書として出版する自由を含む。 3.明確性の理論  …精神的自由を規制する立法はその要件が明確でなければならないという考え方。   漠然性ゆえに無効の理論…法文が漠然不明確な法令は表現行為に対して萎縮的効果を及ぼすため原則として無効となる。  {過度の広範性ゆえに無効の理論…規制の範囲が余りにも広範で違憲的に適用される可能性のある法令は不明確な法令と  同様に原則として無効となる。   事実上一般的効力(違憲判断の効果としてその法令自体を法的に無効にする効力)を持つのと同様の結論になる。  *明確性の程度   →判例)通常の判断能力を有する一般人の理解において、具体的場合に当該行為がその適用を受けるものかどうかの判       断を可能ならしめる基準が読み取れることが必要である。 4.明白かつ現在の危険の基準(clear and present danger)    近い将来、実質的害悪を引き起こす蓋然性が明白であること    実質的害悪が重大であり、その重大な害悪の発生が時間的に切迫していること    当該規制手段が害悪を避けるのに必要不可欠であること   の3要件を満たす場合に規制が可能である。 5.LRAの基準(less restrictive alternative)より制限的でない他の選びうる手段の基準   …立法目的を達成するため規制の程度のより少ない手段が存在するかを具体的実質的に審査し、そのようなより制限的    でない手段がありうると解される場合は、当該規制立法を違憲とする基準。   =立法目的の達成にとって必要最小限の規制手段を要求する基準。  *内容中立規制(時・所・方法の規制)の合憲性の判断基準   →通説)LRAの基準 r.表現の自由の重要性    判例)内容そのものの規制ではないため、目的手段に合理的関連性があれば良いとする。 6.利益衡量の基準 9−4 通信の秘密       21条  集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。    検閲はこれをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。  (1)内容   …表現の自由の保護、プライバシー保護  (2)限界    →通信の秘密は必要最小限の規制に服する。  刑事訴訟法における、郵便物の押収・接見交通にかかる通信物の検閲・授受の禁止・押収  監獄法における、在監者の信書の発受等の制限  郵便法における、郵便物の開示の請求  関税法における、郵便物の差押え  破産法における、破産者に対する郵便物や電報についての破産管財人への配達、開披。